ISJ, 日本画像学会, The Imaging Society of Japan
【会長メッセージ】

平倉 浩治
【情報メディアと環境負荷】
hirakura
 デジタル情報通信量は2006年以降年率45%以上の伸びを示し,エネルギー消費の中で上位を占めるようになってきた.世界規模で見たとき2007年のパソコン,携帯電話などオンライン端末を含む全情報通信(ICT)システムの運用により排出された二酸化炭素は自動車からのそれの1/4となったという.できるだけ早く世界中の全ての人々がインターネット,携帯電話などでグローバルな情報交換の輪に加われるようにするための課題と,気候変動の脅威と化石燃料の使用限界から基本的にエネルギー創出と消費についての再構築を急がなければならないという課題があり,この二つは対立する関係になってきたように思える.

 スウェーデン王立工科大学KTHの2007年の環境関連報告によると,新聞について1年で1人が消費する紙ベースのプリントメディアと電磁ベースのオンラインメディアの電力消費換算量はそれぞれ238 kWh と239kWhで殆ど同じであった.この数値は偶然の一致とは思えず,新メディアが旧メディアに代替していく時の経済原理から来ているように見える.企業の然るべき環境への取り組みで以前から良く言われてきた「エコロジーはエコノミー」だということが新旧メディアの市場でのせめぎ合いの中で達成されてきたのだろうと推測される.プリント電力消費の大半を占める63%の150kWhは用紙の生産にかかわる電力消費であり,オンライン電力消費の大部分70%はパソコンでの表示に関するもので167kWhである.パソコンを構成するデバイスやシステムと比較して紙の生産は長い歴史があり製造の際の省エネは相当の域まで達していると見られるものの,現状ではシリコン半導体ベースのオンラインメディアの方が環境負荷が大きいことは注目に値する.昨年のNIP25の基調講演で,パソコン画面で5分間かけてA4相当文書を熟読する場合とA4両面プリントした場合とで二酸化炭素排出量は同等であると報告した.このように現状のICTの省エネ水準で完全ペーパーレス化を進めるのは環境にも人にも優しくないと言える.

 今まで,日本画像学会を研究・技術交流の場として切磋琢磨してきた関係各位のたゆみない努力が電子写真やインクジェットの高画質、高速、高信頼、低ランニングコストを達成してきている.そしてこの成果を用いたプロダクション印刷事業への応用が本格化してきた.出版業界においてよく言われる問題として,在庫問題がある.紙はかさばるものなので,書店の限られたスペースでは,新刊本が出ればその分返却しなければならない.日本や欧州先進国では出版物の返品率は40%を超えて50%に近づいていると言われている.これを打開する手段として,注文に応じて印刷できる,デジタル印刷(POD)が現実のものとなってきた.この積極的な展開によって在庫を最適化できる可能性がある.オフィス・プリンティング事業領域で熾烈な競争を展開してきた日本の複写機・プリンター産業は,依然として巨大な規模をもつプロダクション印刷に勇気をもって参入する事で,プリントメディアの環境負荷低減に貢献できると考える.開発途上国での違法伐採を監視し,紙パルプの源である森林の保全を行い,それが吸収する二酸化炭素を排出量の削減と同じに扱い,古紙リサイクルの社会システムを完成させ,紙製造に必要なエネルギーを風力,太陽光など再生可能なものに転換していけば,プリントメディアは今後も健全なかたちで成長できるだろう.

 一方オンラインメディアでは省エネ・省資源のディスプレー,電子デバイス,サーバー,ネットワークシステムの開発が今後の主要課題になると考える.本学会が主導してきた表示にエネルギーを殆ど使わないメモリー性の電子ペーパーを用いた電子書籍の高性能化が期待されるところでもある.紙の代替の可能性をもつ電子ペーパーでは現状のICTに用いられている稀少金属を使わず環境に優しく豊富に存在する低コストの材料を優先して用いるべきだろう.

本学会では製紙,機能材料,デバイス,モジュール,システム,画像科学,シミュレーション,生産技術など多岐にわたる専門分野の会員各位が活動されているが,以上のような現状認識で活動領域を拡大しつつ連携していけば大きな飛躍につながるものと信じる.今年4月より本学会は一般社団法人となるが,国内外の関連の学会や団体と更に交流連携を深めながら今後のイメージングについての長期ビジョンとその具現化に一定の責任を持つ存在になりたいと考える.


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